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善き人のためのソナタ [映画]

善き人のためのソナタ スタンダード・エディション映画館での封切時、常時おじゃましていたブログで取り上げられていて、知った映画です。2006年ドイツ映画。DVDで。

静かな、淡々とした描き方の映画でしたが、全体主義の監視社会の怖さ、生きにくさがひしひしと伝わってきますし、どきどき、はらはらしてしまいました。あんな社会で生きなければならないとしたら、どうしたらいいかわかりません。それにしても、監視対象者の作家が危険をおかして、西側の雑誌に載せた記事の内容が、東ドイツのヨーロッパで最大の自殺者数に関連したものなのですが、いったいどのぐらいの数字だったのでしょうか。日本の自殺者数はもう何年も前から年間3万人と言われているので、とても気になりました。希望のなさは全体主義社会と同じ、あるいは、それ以上なのでしょうか。

東ドイツ崩壊後の後日談のところでは、泣けましたけど、監視者である主人公、国家保安省の役人の心理状態は、その任務が結局のところ有力者の個人的事情や役人の出世欲に根ざしたものだと知ったことも根底にあるにしても、相当な危険を覚悟していたというよりも、厳密に言えば状況は違うけど、むしろ主人公のほうが精神的拘禁状態にあり、人間として自由な監視対象者に知らず知らずのうちに猛烈に感情移入してしまった、ある意味、ストックホルム症候群に陥ったんじゃないか・・というのが率直な感想。

とはいえ、この主人公は監視対象者の自由で豊かな精神と生活に触れることによって、無自覚のうちに失っていた人間性を取り戻したのではないでしょうか・・・ 主人公はその上司や大臣のような俗物の対極、あまりにも純粋な教条主義者であるが故に、別の対極にある作家のいかにも人間くさい生活に、まるで魔がさすように引き込まれ、その結果に後悔することさえない・・ ある種の恍惚感に満たされ続けていたようです。

映画の最後、自分が監視対象者だったとは思ってもいなかった作家が、事の経緯を知り、東独崩壊後初の作品、「善き人のためのソナタ」と題する本を著わします。彼は自分が完全監視下にあったこと、そして、その監視者が「善き人」であったことを、膨大な自分に関する報告書の中で発見し、仕事を禁じられ絶望して自殺した友人の演出家が遺書のように作家に渡した楽譜「善き人のためのソナタ」との連想で、それに、もしかしたら、作家がこの曲をピアノで弾いたときから、監視者の報告書に変化がおこりはじめたと感じて、この題名を選んだのでしょうか。

本屋のショーウィンドウに飾られた作家の顔写真と新著に偶然出会って、その本を手に取る主人公。扉ページを開くと、彼に献呈されている・・この展開は案の定の期待通りなんですけど、胸が熱くなります。まさにクライマックス。そして、プレゼント用の包装をしましょうかと尋ねる書店員にそれを断って「私のための本ですから」とちょっと誇らしげに言う彼。作家のために現世的なもの、すべてを棄てた主人公の充足感が伝わります。また胸も目頭も熱くなり、もう涙があふれるにまかせました。なんともしゃれたエンディング。

原題は「Das Leben der Anderen」で、逐語訳としてはネット上では「他人の生活」「他人の人生」が見られますけど、ちょっと違うような気もします・・・「他人」という語に問題があるような・・ それに、生活、人生、生命 いのち 生 生き方、暮らし・・等々、日本語ではたくさんの語があるけど、欧米系の言語では、ひとつなので、困ります。区別しないってことでしょうけど、日本語では区別しないわけにいきませんもの・・・その点「善き人のためのソナタ」は日本語として違和感も抵抗もないわけです。

もうひとつ、興味深かったのは、作家の同じ作品の、東独時代と東独崩壊後の舞台上演風景が映画の初めと終わりにあるのですが、その演出の様変わり振り。同じ作品には見えません。


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コメント 4

なつ

こんにちは。
私が見た時の感想の記事にTBさせて下さい。

ヒロインが反体制のジャンヌ・ダルク!みたいな人じゃないところがよかったと思います。
主人公が「ファン」としてバーでヒロインに話しかけるシーンが好きです。
あそこで彼の繊細な本質がはっきりとして。
主人公を演じた俳優さん自身が、東独時代妻に監視されていたとか…私がこの作品を見た直後に癌で亡くなられて、吃驚しました。

>原題は「Das Leben der Anderen」で、逐語訳としてはネット上では「他人の>生活」「他人の人生」が見られますけど、ちょっと違うような気もします・・・「他>人」という語に問題があるような・・
そうだったんですか。lebenはイタリア語のvitaにあたる言葉でしょうか?
邦題、私もほんとうによいと思います。こんなに良い邦題、今時珍しいです。
by なつ (2007-11-03 17:31) 

euridice

なつさん、TBありがとうございます。

>主人公が「ファン」としてバーでヒロインに話しかけるシーン
ここも意外性があって印象的でした。

あのバーにしても、シュタージの食堂、主人公の住まいと食事、着た切り雀らしい服・・と、異常に無機的でしたね・・無駄なものというか、遊びゼロ。

>lebenはイタリア語のvitaにあたる言葉でしょうか?
英語だと、life でしょう。
by euridice (2007-11-04 17:42) 

neveu

今頃コメントですいません。

私もこの映画はDVDで観ました。まともに見れない部分もありましたが・・・
主人公はあまりにも四角四面で不器用で、その主人公が取る行動があまりにも大胆なのは少し突飛だなと感じましたが、作家と恋人の女優の生き方は両方とも共感できました。「犯した罪はとても償いきれない」と死を選ぶヒロインと、その亡骸に「ごめんよ、ごめんよ」と言ってすがる作家。いろいろと感じてしまって、あまりまともに観れませんでした。

でも、いい映画だと思います。子供にはまだ見せられませんが、でも将来はこれら登場人物の気持ちが理解できる子になって欲しいと、強く思います。
by neveu (2007-11-05 23:03) 

euridice

neveuさん
コメントありがとうございます。ずっと過去の記事でもコメントいただけるとうれしいです。ご遠慮なく!!

>まともに見れない
ほんとに平静に見ていられない気持ちになります。
登場人物の中では作家の恋人の女優が一番つらい立場に置かれてしまいましたね。それをどうすることもできない作家もつらかったと思いますし・・
以前見た「トンネル」という映画でも犠牲になった女性はちょっと似ていました。こちらは生き延びることができましたけど・・

>これら登場人物の気持ちが理解できる子になって欲しい
そういう人が多数になってほしいですね。

↓ごく簡単なトンネルの記事
http://blog.so-net.ne.jp/euridiceneeds/2004-12-05-7
by euridice (2007-11-06 07:38) 

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「母べえ」と「善き人のためのソナタ」- - 自由にものが言えない世界(ペガサス・ブログ版 2008-02-22 17:41)

もう上映が終わってしまうかもしれないと心配して,ウイークデーの夕方,「母べえ」を観に行った.特高に父親を連れ去られた一家と,そのまわりの人々の生活を描いたもので,'84年の読売新聞の懸賞で選ばれた野上照代という人の小説が原作になっている. 実によくできた映画だと思う.登場人物の一人…[続く]

「善き人のためのソナタ」(Il quaderno d'Estate 2007-11-03 23:12)

2007年アカデミー賞外国語映画賞を受賞したドイツ映画『善き人のためのソナタ』(2006年 フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督)を見て来ました。

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